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第60章 《其の壱》

　弥子とて、年端もゆかぬ三人の幼子の母である。殊にまだ乳飲み子の我が子を遠い京に残しての江戸下向は、民部卿局にとっては辛いものであったはずだ。その大切な我が子が生死の境をさまよう病に罹っているときに、他人の子を育てる乳母などしていられる場合ではないだろう。
「それゆえ、新しい乳人をお探しになられているのでございますね」
　漸く話が見えてきた気がして、弥子は良人を見つめた。