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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第64章 十三夜の月 《壱》
 今となっては、壱之進の女を惚れ惚れとさせる男ぶりの良さも、いかにも分別のありそうな落ち着いた物腰のどれもが、ほんの見せかけ、上辺だけのものであったにすぎないことが判っていた。
 男の―人の価値は美醜や気の利いた思わせぶりな科白が言えるかどうかで決まるものではない。むしろ兄のような、この江戸からはるかに離れた小さな農村で出逢った朴訥な男にこそ、真の思慮深さや優しさといったものがあるのだ、と。
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