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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第17章 《巻の参―幻(げん)花(か)―》
泉水の脳裡に、唐突に幼い日の記憶が蘇る。二人で満開の椿を眺めていた最中、急に雨が降り出した、あの日。祐次郎に手を引かれて駆け込んだ庭の四阿でいっときの雨宿りをした。あのときも、やはり、こんな風に烈しい雷鳴を聞いたような気がする。
怯えて小さな身体を震わせる泉水を、祐次郎はそっと抱きしめてくれたのだ。祐次郎の胸は限りなく広く温かく、安らげるように思え、泉水は一瞬、怖さも忘れた。あれは、祐次郎が亡くなる一年前の早春の昼下がり、祐次郎は十三歳、泉水は十歳のことだった。
怯えて小さな身体を震わせる泉水を、祐次郎はそっと抱きしめてくれたのだ。祐次郎の胸は限りなく広く温かく、安らげるように思え、泉水は一瞬、怖さも忘れた。あれは、祐次郎が亡くなる一年前の早春の昼下がり、祐次郎は十三歳、泉水は十歳のことだった。