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激愛~彼の瞳に射貫かれて~
第20章 あとがきに代えて
この事件は当時の一大スキャンダルとして世間を賑わしたようですが、実のところ、本当に絵島が生島新五郎と通じていたのかという点については疑わしいという説もあるとか。明治維新となり、大奥という特殊な女の世界がなくなってから初めて、その実態が明らかになりました。大奥勤めをしても、大奥で起こった事はけして口外してはならぬというきついご法度があったからです。なので、江戸時代は大奥内で何が起こっているか―ということは、一般庶民にとっては知り得ない秘密でした。それが、明治になって、大奥勤めを経験した女たちが初めてその現実を語ったのです。
 彼女たちいわく、〝大奥の御年寄のような高位の奥女中が代参のついでに役者と情を通ずることなぞ、できるはずがない〟と言ったそうです。幾ら城外に出ても人眼というものがありますから、絶対にできっこない、常識で考えてもあり得ないことだと。
 では、何故、そのような事件が起こったのか。それについては、これもある説があります。絵島は七代家継の生母月光院の腹心の侍女でした。月光院という女性は六代家宣の側室の一人ですが、家継は家宣の三番目の子でした。上の二人の兄たちが次々に夭折したので、三男が跡を継いだのです。ちなみに長男、次男は月光院の生んだ子ではありません。家継は将軍となった時、まだわずかに五歳の幼児でした。そんな子どもに政治などできるはずもなく、間部詮房という側用人が家継の代わりに権力をふるっていました。
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