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そのキスの代償は……
第6章 その逢瀬
いつの間にか床に落ちていた紙を腰を屈めて持ち直す。

そして、床に残ったものを目を細めて睨んだが、

忌々しいものをこのままここに置いておくことはまずいと思い直し、

親指と人差し指で摘み上げ、ポケットに押し込む入れる。


それからコピー機にもう一度向かった。

その1枚ぐらいすぐできる。なんてことない。


さっさと仕上げてしまって、自分の仕事を始めなければ…

私だって別に暇なわけじゃないし、

好きでこんなことをやってるわけじゃない。

あの人の補助役に指名されたからで…

それをやらなければ、この会社で生きていけないから。

この会社で働けなければ、私たち家族は路頭に迷うしかないから…


そんな惨めな私を躰だけでは飽き足らず、

心まで搔き回すだけ搔き回してこうやって突き放すなんて…

あの人にとっては時折の悪戯なのかもしれないけど、こんなのは嫌だ。


それでも、そんな仕打ちをされてもたぶん私は

次の飲み会が近づいてくるとそわそわし始める。

メールが来ることを秘かに期待して、

1週間くらい前から夜になると携帯をたびたび握り締めるんだと思う。


それまでに受けた快感が、どんなに頑なになった心も

躰と同じようにするりと解いてしまうから…


そのメールを、

その躰を、

その行為を、

結局は受け入れてしまうんだろう…
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