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そのキスの代償は……
第8章 その夜
握られたその掌を渾身の力で振り払う。

もういいでしょ…

それなのにあの人は、逃れようとする私の手を再び握った。


痛いほど強く握られた掌から、得体のしれない頑固な意思を感じる。

こんなところで、もう私に触れないで…

これ以上私にありえない夢を見せないで…


あの人は私の左手を取ったまま、正面に座る女に向かい静かに言い放った。


「いくらおまえでも、これはあまりにも失礼すぎるんじゃないか?

佐伯も佐伯だが、それを許すお前もおまえだろう?

彼女は俺の部下で、一緒に研修に来ているだけだ。

いい機会だったから研修に推薦して

管理職も許可したから連れてきたまでだ。

お前が考えるようなそんな女じゃない…

日頃の労をねぎらって食事くらいおごっておかしくないだろう?」


私の方に一瞬だけ向き直り、もう一度その手に力を込める。

その掌の温もりが、私の胸をざわつかせた。

その言葉に、心が揺れ動くいていく…


「お前がそうやって佐伯を連れて歩くのと同じことだ。

悪いが相良は気分が悪そうなので、彼女の部屋に連れて帰る。

こんな公の場所で、憂さ晴らしのためだけに関係ない他人を巻き込むより、

ストレートに思ってることを俺に言えばいいだろう?

何か気に入らないことがあるなら

後からこっちの部屋に連絡してから来ればいい」
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