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そのキスの代償は……
第8章 その夜
あの人は、女の返答を聞く気がなかったのか…

自分の言いたいことだけを言い終えると、

握ったままの私の手をグイと自分の方に引き寄せる。

それにびっくりしてあの人の顔を見つめると、

目だけで『いくぞ』と合図されたような気がした…


とにかくそこから…

この異様な世界から逃げたい一心で、

その鋭い瞳に応えるように私はコクリと頷いた。


次の瞬間すごい力で引きずられるように体が宙に浮いた気がした。

自然と足が前に出て、歩幅の大きなあの人と滑るように店の中を進んだ。


私は確かにこの人の部下ではあるけれど…

でも、それ以上は何もないなんてこんなふうに平然と言えるわけがない。

女は私たち二人を見た瞬間から、その関係を疑って、

背後にあるものを勘ぐっている状態なのに、

その場限りの見え透いた嘘で体裁を取り繕って、

とりあえずこの場を切り抜けようとしている?

全然この人らしくない…


考え事をしながら、周りの様子が分からないほどのスピードで、

店の中を足早に走り抜けていくと…

視界にやっと入り口が見えた。


とにかくここを出てしまおう…

もう少しだから…

そう思った矢先のことだった。
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