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そのキスの代償は……
第8章 その夜
あの女は何をしでかすかわからない…

とにかくあの場から連れ出したかった。


未練たらたらの心を押し隠し、部屋のドアの前に立つ。

食事の前に預かっていたカードキーを探し、部屋のカギを開ける。

抱きしめたい衝動をぐっと飲み下して、ひなの手にカードキーを握らせ、

目の前に広がる暗闇に押し込んだ…


バタンと音を立ててドアが閉まり、ガチャっとロックがかかる。

その音が何かの引き金を引いたのか一気に怒りが込み上げてきた。


あの女は…

今までほったらかしだったのに…

本当になんてタイミングに現れるんだ!!


呼吸が荒くなり、肩で息をしながら

しばらくその怒りを収めることに集中した。

年甲斐もなく叫んで暴れたかった。

何かにこの言葉にできない感情をぶつけて発散したかった…


視界にドアの色が戻ってくる。俺は仕方がなく自分の部屋に入り、

大股で歩きながら着ていたものを乱暴に脱ぎ、あたりに投げ捨てる。

ネクタイに手をかける頃には窓辺にたどり着き、

締め付けていた戒めを緩め、目を細める。

厭味のように煌めく綺麗な夜景に向かって思いっきり投げつけた。


これをひなと一緒に見るつもりでわざわざ連れてきたのに…

今まで慎ましやかに暮らしてきたであろう彼女に

たった一夜でも夢を見せてやりたかった…

その夢の片隅にいるのが誰でもない俺でありたかったから…
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