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そのキスの代償は……
第9章 その躰
扉を思い切り引き、浴室に押し入る。

視界が涙で揺らめいていたが、足早に歩いてシャワーの前までいき、

蛇口を目いっぱいひねった。

ザーという音と共に冷たい水が肌を伝う。

目盛は合わせても、ちょうどいい温度になるまでは…

待ちたくなかった。

その場にしゃがみ込んで、温度が上がるのを感じながら

流れるままに頭からかぶった。


堪えていた嗚咽をもう我慢しなくてもいい…

そう思うと、途端に唸り声が出て、しゃくり上げながらただ泣いた。


夢なんて見れなくてもよかったはずだ。

ただ、密やかにその関係を続けられたらそれでいいのに…

それも終わる。


とめどなく流れる暖かい雫が、躰を優しく撫でているようで…

こんな時まで浅ましいことを考える自分が嫌になった。


気持ちを逸らそうとさっき握られた掌を、

細い目を開けて穴が開くほど見つめた。

あの時どうしてこの手を握ってくれたのだろう?

どうして振り払う掌をそれでも握り締めて、忌々しい世界から

連れ去ってくれたのだろう?

今までなら絶対にあんなことはしなかっただろうから…

あの人のことがますます分からなくなってしまった。


その掌は…

確かに温かかった。
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