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そのキスの代償は……
第14章 そのひと時
「相良君…

相良君?」

仕事に集中していたからなのか、名前を呼ばれたのに気が付かず…

パソコンに向かっていた私の肩に誰かの掌が触れた。

「はい…」

鼻腔に飛び込んできた煙草の匂いとフレグランスの混じった独特の香りに、

顔を上げなくてもあの人だとわかる。

本能で意識したまま顔を合わせたくなくても…

それでも見上げるしかないのは、仕方のないこと。


そして…

有無も言わせずに視線が絡む。


この人はどうしてこんなに強い闇を宿す瞳を持っているのだろう?

どうして私にそれを見せるのだろう?

不謹慎にも仕事中なのにそんなことを考えてしまった。

でもその奥の闇が見えるのは瞬きするほどの事で…

視線をほんの少しだけ反らし私の隣のデスクにある椅子に腰かけ

紙数枚を片手で差し出した。


あぁ…

なんだろう?

無言でFAXを受け取り紙をめくり始める…

文字を追おうとして躍起になったが頭に内容が入ってこない。

それでも目の前で何かに動揺していることを悟られたくなくって

視線を左から右に繰り返し流し続けながら、『落ち着け、落ち着け』と

自分を宥める。

一点に集中し…

大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
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