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そのキスの代償は……
第14章 そのひと時
躰の快感を得る代わりに、失う物のあまりにも多いこと…

それでも…

それがわかっていても…

止めることができない。


人である以上この快感を手放すことはできない。

今までに味わったことのない淫欲の雫。

その雫を一度手にしてしまえば…

飲み干せば次が欲しくなる。

もっともっと…

心以上に躰が勝手に欲しがり衝動的に行動してしまう。


それでもたぶんあの人が転勤してしまえば

この関係は私の感情に関係なく…

終わる。

あの人に捨てられたら、もう私に触れてくれる人なんて…

絶対に現れやしない。

こんな三十路を超えたややこしくて難のあるシングルマザーに、

そんな奇遇が起きるのは、そう…

私は掌の中にあるモノを握り締めた。

本の中の虚構の世界しかない。


そう思うと堪えたはずの涙がまぶたを閉じたままなのに溢れてきた。

現実は小説より奇なり。

現実は小説以上に残酷で…

不条理で理不尽だ。

それでも私は生き永らえないといけない…

そう娘のために。母親としての自分のために。

その夜、本を抱き締めたまま私はベッドに横たわり泣いた。


いつの間にか眠りの縁から堕ちていて…

次に目が覚めたら、

ベッドサイドの明かりがついたまま辺りが明るくなっていた。
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