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そのキスの代償は……
第3章 その情事
コンコンコンコン。

私は指定された部屋のドアを恐る恐るノックした。

それからドアから一歩後ずさり…

それを待つ。

しばらくしてガチャっという音がして、

内側からコンコンコンコンコンと5回ノック音がする。

それがあの人との約束のサインだった。

周りに誰もいないことをきょろきょろして確認し、

一呼吸置いてドアノブを引く。


私は意を決して部屋に立ち入り、視線を上げると少し向こうに…

あの人らしき黒い影が立っていた。

決してお互いが一緒にいるところを見られないようにするため…

あの人が戸口で迎えることはないらしい。


アドレスを教えてもらったあの晩。

あの人からは、

【ホテルの名前と部屋番号。

部屋のノックを4回して、5回ノックが返ってきたら

しばらくしてから部屋に入る。】

というシンプルな内容のメールがあった。

ホテルへの誘い…

おそらく泊まるのだろう。


ある程度の事は想定できるものの、あの人は私をどうしたいのか…

はっきりとはわからないまま、それでも私はそのメールに従った。


私には、もうあの人の手の内に入るしか欲しいものを得る方法がないから…

そのホテルは、職場から真反対の…

隣の市の駅近くにあるホテルだった。
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