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そのキスの代償は……
第3章 その情事
今夜もあの人は、欲望のまま私を翻弄して…

己の飢えを潤すために…

ただひたすらに何度も喰らう。


あの人は躰の関係だけだと言いながら、貪るように口づけてくる。

そのキスは…

とても甘い。

でもどんなに甘いくちづけをかわしても、

あの人の心は私の物にはならない気がしていた…


私を見つめる視線がどことなく遠いことがある。

それは、行為に没頭しているときで…

あの人はその場にいなくなる。


その指先を…

その唇を…

感じるたびに、この人が女の扱いに慣れていると感じる。

よくわからないけど、あの人の心には誰かが住んでいるのではないか?

跨った上から感じる視線の先に何かを見透かしている気がする時もあった。

ずっとその人を見つめながら、目の前の私を抱いている。

だからあの人に…

私は見えていない。

でもそれでいい。それでもいいから…


私に必要なのは躰。そう思い割り切ろうとした。

あの人も私にそれだけを望んだ。


今までの私にはこんなこと、絶対に考えられない行動で感情。

本能のままに…

ただあの人の躰に溺れていく…

泥沼に足を取られていく。


その淫欲の泥沼に自らどっぷりとはまりこむ。

これからも、許される時間…

そうするつもり。


彼には妻子がいる。

そして、いつ転勤になるかわからない上司なのだから。
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