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そのキスの代償は……
第3章 その情事
意識の端をなんとか手繰り寄せようとしても、

あの人の指先の繊細な動きが益々早まり、躰の震えが止まらなくなって、

無意識に首を左右に振りまくる。

それが余計に私の意識をどこかへと飛ばしてしまって…


自分が誰かも、ここが何処かも、わからない。

与えられる突き抜けるようなこの快感に…

ただ溺れていく。


お互いの欲望は、底なし。

どちらの抱える闇が深いのだろうか?

どちらの抱えるしがらみが多いのだろうか?

でも今は…

躰が重なるときには…

意識してその全てを捨て去る。


本能をむき出しにした、二人。欲望以外は何もない。

快感以外は…

いらない。

あの人の指の動きがはたと止まり、私を見下ろす。


そのねっとりと舐めるような視線に、

さらけ出された肌の全てを犯されているように感じる。

その瞳に釘付けになり、ブルっと躰を震わせる。

そして、いつもの右の眉の上がる、あの人の表情…


次は何をされるの?

その表情は少しの恐怖と、でも今まで以上の快感をくれるという、

妙な期待を抱かせる。


それから、私はあの香りと煙草の匂いに包まれながら

快感の絶頂に押しやられた。
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