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せめて夢の中だけでも
第15章 騒つく心
ぼーっとしながら食べていると
さっきから私の視界の右側で赤いものが
ピョンピョン行き交っている。




「ん?」



右側に置かれているサラダに目をやると
明らかに私のサラダはトマトで埋め尽くされている。



「ん?」



仁さんへ目をやると
仁さんは肩を揺らし笑いをこらえている。



秋雨に目をやると…

秋雨はいたって無表情で目線を合わさない。


秋雨のサラダはトマトが一個もない。




「…秋雨…」



「んー?」



目線を合わさないまま、クロワッサンを頬張る。




「トマト…嫌いなの?」


「…なんのこと?」


「全部私の皿に入れたでしょ。」


「…なんの…事?」



「自分のトマトは?」

「食べました。」

「好きなの?」

「…ん。」



「なら私のトマトあげるねー!」


ボイポイと秋雨のサラダへとトマトを返却する。




「あぁー!無理無理無理!」


慌てる秋雨を見て仁さんは堪えきれず
声を出して笑った。




…トマトごときでこんなに取り乱すなんて…
秋雨って面白い…



私も声を出して笑った。
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