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せめて夢の中だけでも
第5章 静止の手。


普段と変わらない1日が始まる。


向かい側に座る隼人の背中をジッとみつめて
フフッと少しだけ笑い、パソコンの電源を入れた。




「先輩。何一人で笑ってるんですか?怖いですよ」


隣のデスクの2年後輩の沙織ちゃん。
肩までのパーマがかかった髪がとても可愛い。
色白でピンクのチークがとても印象的なコ。



「あっ。ごめん。何もないよ」


「ん?先輩手のひらに何か付いてますよ?」


沙織ちゃんがふと私の手の平を見ようとする。



「えっ?あっ…」


2日経っても綺麗には消えない彼の名前が
うっすらとまだ残っていた。



…油性ペンなんかで書くからよ…


沙織ちゃんはその薄い字を

「雨?」と首を傾げて見ていた。



「そう。雨…降りそうだったから書いたの」



なんて苦しい言い訳なの…



そんな事つゆ知らず、沙織ちゃんは
「そっかー!」と目線を手から離した。
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