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せめて夢の中だけでも
第38章 知らないあなたも私は知りたい。
「俺は…この名前が…嫌いだった。」
…前に仁さんが教えてくれたことがある。
何で店ではみんなが『秋』と呼ぶのか。
その仁さんの答えは…
『秋は自分の名前が嫌いだからね…』だった。
「雨の降る日…母親は死んだんだ。
事故で…雨でスリップした車が突っ込んできた。
草は花に生命をもたらしても…
雨は人間の命を奪う材料になる。
だから…俺は俺が嫌いだった。」
そっと秋雨の手に触れると
秋雨は私に抱きついてきた。
私の肩に顔を埋めて小さく肩を揺らす。
その背中に腕を回しトントンと叩くと、
大きく秋雨が息を吐き出した。
「辛かったよね…ごめんね。」
髪を撫でると秋雨は小さく笑った。
「情けないね。俺。
でも今はこの名前…気に入ってる。」
「うん。とても…綺麗な名前。」
そう言うと秋雨が抱きしめていた腕に
力が入った。