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せめて夢の中だけでも
第38章 知らないあなたも私は知りたい。
秋雨が店の準備をしている間
私はカウンターに1人座り
彼の仕事をする姿を見つめていた。
仕事の時だけかける黒縁メガネ。
その奥の瞳はいつだって優しさで溢れている…。
その事を私は知っている。
バイトの子たちからも信頼されていて
みんな、準備を慕っている。
壱君…花子ちゃんだってその中の1人なのだろうと思っていた。
ただのバイトの…秋雨を慕う1人の中に過ぎないと。
私が秋雨の姿に気を取られていると
カウンターの中から声がした。
「見過ぎじゃない?」
「花子ちゃん…」
「凛さん…秋雨さんがこの仕事してて嫌じゃないの?」
「えっ…?」
「女の子に笑いかけて…機嫌とって
色目かけられて、酷い時には体を触らされたり…触られたり。
あんた…一応…奥さんになる人なんでしょ?」
…嫌じゃないわけじゃない。
何度だって嫉妬したし…泣いた日もある。
私も大勢の中の一人に過ぎないんだと…落胆した日々だって。
でも…それは秋雨の事を知る前の話。
今の秋雨を知れば…
私を何よりも大切にしてくれているのは感じている。
私が信じなければいけないと…
彼はこの仕事を続けられないと思ってここまで来た。