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雨と殻
第3章 五月雨
◇3◇

静かなゆったりとした声が、それが紡ぐ言葉が、強まる雨音に溶けかかる。
黒は必死でそれを追う。
そのため徐々に近付いてくる黒に、雲母はまたほろりと笑う。
「……いいよ、さして大事な、話でもない。そこで、聞こうとして、くれている。それだけで、嬉しいよ」
「それだけでは、誰でも出来ることになってしまう」
黒は思わず言った。
「私でなければ出来ないことを、あなたに、したいと思うんです」
雲母は目を細める。
「……お前さんは、良い若者だ。それでいい。自分の力を、お探しなさい。これからを、生きてゆくのだからね。でも、私を、その相手にしてちゃいけない。私は、これまでを、生ききった者だからね」
ゆったりと優しい声で、雲母は言った。
けれどその声が、少し震えているのに、黒は気が付いた。
そしてなぜか、突然雲母を抱きしめてしまった。
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