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雨と殻
第3章 五月雨
◇2◇

樹の下にいた個体は雲母と名乗った。
「そういう名前の、石が、あるのさ」
黒はその石を見たことがなく、そのことが恥ずかしく思えた。
「なに。この先、見ることも、あろうよ」
雲母の身体は殻と同じ、薄く茶を帯びた乳色。
 左の瞳は深い茶色。右の瞳は不思議な金茶色で、外縁がわずかに灰色を帯びている。
「お前さんの、名は?」
「黒、です」
雲母はにっこりと笑む。
「良い、名だね。その綺麗な、目と肌を、親御さんはさぞ、愛したのだろう」
黒は産み親の顔を思い浮かべる。そしてふと、目の前の雲母の顔に、産み親が重なった。
産み親がもう少し年を重ねたら、こんな風になるのでは……
こう考えてようやく、黒は、雲母が老齢であることに気付いた。
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