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恋のリサーチ
第3章 小さな恋の芽


2年と2ヶ月が過ぎた頃、

私は彼に内緒で

名古屋に訪ねていくことにした。

半休をとって夕方には名古屋に着くようにして、

彼の住むマンションの向かいにある喫茶店で、

エントランスの見える窓際に座り帰宅を待った。

帰ってきたら後ろから

ワッて、子供みたいにおどかしてやろうと

ひたすら待った。

待っている間にコーヒーを2杯、おかわりした。



あたりがすっかり暗くなった頃、

街灯のあかりに照らされる人影が目に入った。

彼だった。だけど・・

1人ではなかった。


わりと筋肉質な彼の腕にしがみついている

女がいた・・

甲高い笑い声をあげながら

彼の背中をはたいて・・

その女を見下ろす彼の笑顔は・・

幸せそうだった。


私にいつも見せてくれるそれとほとんど同じ。

そんな表情を向ける相手って・・


もうそれ以上、考えるのをやめた。

だって・・泣きそうだったから。


それよりこの後の自分の行動について考えよう。

どうする?

彼の部屋に乗り込んでいってわめき散らしてやる?

泣きながら女を罵倒する?・・でも私、

そういうキャラじゃない。

地味で、情熱なんて言葉からは遠く離れているような女。

そんな女なりの行動に出るか。


とりあえず喫茶店を出て、エントランスの前から

彼に電話をかけた。


何事もないように、今部屋に帰ってきたんだ、と

声を弾ませる彼。

私も目いっぱい明るく言った。



「私もマンションの前で待ってたの。でも、大丈夫、

 もう帰るから。さようなら・・」



ケータイを切るまで少し間があいた。

電話の向こうから彼の叫ぶ声が聞こえたみたいだけど、

よくわからなかった。


エントランスに背を向け歩き出してすぐ、

高いところから叫ぶような声が落ちてきた。

振り返ってみると、

4階の廊下で手をバタバタさせている

彼の姿が見えた。はっきり見えた。

でも・・

私は見なかったことにして、早い足取りでそこから立ち去った。


駅までの道のり、周りの様子はまったく覚えていない。

とにかく来た道を戻る、それだけ。

名古屋駅に着いて人の騒々しさにやっと、

そこが名古屋駅だと意識した。


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