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トラワレテ…
第3章 不覚
コンコン。

ノックしながら城太郎が顔を覗かせる。

「馨ぇー。車待たせとくか?」

「んーーー。もー遅ぇーし、いいや。タクシー捕まえるから、帰らせてやって。」

椅子に座り、窓の外をぼぉっと見たままの姿勢で答えた。
会社では城太郎にしか見せない素の姿。

「そ?
じゃ、お先に失礼します。社長」

(んだよ?!ジョーの奴、急にコロコロかわりやがって…)



………はぁーーーー。疲れた…。


ついさっき、切った女の電話でキンキン吼える声が耳についたままで煩わしい…。

「イヤよ!逢いたいの!抱いてくれなきゃおかしくなって死んじゃう…」

(どうせ、俺の上辺だけしか見てねぇくせに!)



大学在学中、
幼なじみで腐れ縁の城太郎と立ち上げたイベント会社は、ふとしたキッカケでメディアに取り上げられ、今や社員数500人の規模にまで成長した。

「超!高スペックなイケメン青年実業家」

母方の祖母がイタリア人で、男三人兄弟のなかでも最も濃くその血を受け継いだためか、物心つく前から彼の周りには女が絶えなかった。

180cmを優に超える上背に加え、海外のサッカークラブのスカウトマンに留学を打診されるほどの飛び抜けた身体能力。
そして何よりもその端整な顔立ちはそこらの芸能人など霞んでしまうほど…

女が寄って来ない訳がない。


「女の子はみーんなお姫様なんだよ。馨。」

幼い頃から祖母に刷り込まれ、もはや彼の中での常識となっている女性へのエスコート術は、いとも容易く女の心を掴んでしまう。


しかし、馨を取り巻く女達は、誰一人として馨の心の琴線にふれる事はなかった。

寄ってくる女を抱けば抱くほど、彼の心は閉ざされた。
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