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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第36章 春雪
 千草のしてやったりの笑顔に頼嗣がむくれた。
「何だと。さんざん人の心を弄んでおいて、その言い草はないだろう」
 頼嗣が叫び、千草が〝おお、怖い〟と身を竦める。昔からの他愛ないやりとりがそこにあった。誰にも邪魔されない二人だけの時間であり空間だ。
 ふと頼嗣の視線が千草の顔の前で吸い寄せられるように止まった。静かな潮騒だけが響く中、二人はしばし見つめ合った。まなざしが絡み合う。
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