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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第36章 春雪
 頼嗣が立ち上がり、小窓から外を覗いた。
「これでは帰ろうに帰られぬな」
 誘われるように、千草も後ろから覗くと、雪は止むどころか、ますます烈しくなっているようだ。
 鉛色の分厚い雲が折り重なった雲間から絶え間なく舞い降りてくる雪は、やはり春に咲く桜の花びらに似ている。その雪の花びらが海に音もなく吸い込まれてゆく光景はこの世のものとも思えぬほどに幻想的で夢のようだ。
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