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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第37章 浜辺にて(二)
千草が館を出てほどなく、北条の放った火矢から屋敷中に火が燃え移り、さしもの隆盛を誇った名門河越氏の屋敷は焔に包まれた。
―母上っ。
千草はまだ生後七ヶ月の嗣太郎を腕にひしと抱き、涙ながらに燃えてゆく実家を見つめた。女は生命は取らぬという北条の情けには縋らず、最後まで良人に殉じた母の最期はいかにも母らしい鮮烈なものだった。
「母上」
無邪気な声にふと我に返った。千草は長い回想から我が身を解き放った。