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笑うことしか出来ない私へ
第3章 優しいフリ
心臓がドクドクと音を立てて
うるさくて、苦しかった。
なぜ、男を追い掛けて掴まえたのか自分の行動も謎だった。
さっき、掴まれていた手首が熱い。
手が離れた時、名残惜しかった。
だから、離されたくなかったのかもしれない。
人にここまで執着したのは初めてだ。
自分の予定を変えてまで
こんな行動を取るのはこれが初めてだった。
「…」
男は手首を掴んだ瞬間、驚きもしなかった。
ただ振り向いて
黙って私を見てた。
「死ぬのやめたの?」
私は掴む手に力を入れて
コクりと頷く。
なぜ、この手を離せないでいるのか
早く離さなければ…
どんどん気まずくなる。
「着替えたら?」
男は何も気にしてないかのように話す。
またしても私は頷く。
「家どこ?
送ってやる。」
「ここの、5階。」
男は掴んだ手首とは逆の手で
私の両手を優しく外すと
私の手首を掴んで
エレベーターへと向かった。