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暁闇
第10章 上書きされていく
「私が言えるのは、私の場合だけだけど」
それでも、そんなふうに言って。
話してくれそうな彼女に、ん、と続きを促した。
「そもそも忘れるなんて、そんなの無理だと思わない?」
「え?」
「だって一度は好きになった人のこと、記憶からなくすなんてどうすればできんの?」
「坂本――――」
「もちろん、思い出したくない恋もあったよ? でも、今でもやっぱり記憶にあるし」
俺から視線を外し、考え込むようにして、それから、うん、と何回か頷いて。
「何だろ……上書きされてくかんじかなあ」
「上書き?」
「そ。完全に記憶から消すのは無理でも、そうやって思い出すことが少なくなっていくっていうか。
一番に思い出してたことが、そうじゃなくなってって……だんだん過去のものに本当になってくっていうか」