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BAR・エロス
第8章 2人目・・

一組の男女は
向かい合う形で座っていて、
すでに交渉を始めているようだった。

もう一人、女の客がいるが、
彼女は離れて座る男の客を物欲しそうに眺めている。

バーテンはしかし、この男女をマッチングさせないようで
どちらにも声をかけることはなく、
黙って私の酒を作っていた。


「お待たせしました」


私の前にグラスを置く時、
その指のきれいさに気がついた。
男のくせに、ほっそりとしていて。
どこまでこの男は美しく仕上げられているのだろう。
顔立ち、指・・
こうなると全身くまなく見てみたい。
まだほかにも感激するほどきれいな部分を
隠し持っているのではないだろうか・・


「いずれまたって、言ったでしょ?」


「え!」


私の・・イヤラシイ思惑に勘づいたのか?
どうしてこんなにも簡単に
私の心の声を聞きとっているのだろう?それとも・・
ヨダレでもたらしそうな顔つきだったのだろうか・・

慌ててグラスを掴もうとして
その手をすべらせてしまい、倒してしまった。

バーテンの方にむかって流れ出てしまった
琥珀の液体・・
もったいない事をしてしまった。


「ごめんなさい・・とんだ粗相を・・」


こぼれた酒を拭き取りながらバーテンは、
大丈夫ですよ、と上目づかいにニヤッと笑う。

恥ずかしくて体を縮こまらせてうつむいていると、
再び私の前にグラスを置く音がした。


「まだ飲んでないのに酔っちゃったの?
 交渉はこれからだよ」


少し低いバーテンの声が、
また耳の近いところで聞えた。
顔をあげると、
カウンターから身を乗り出すようにして
私の耳元に顔を寄せていた。

ほらまた・・
これじゃあヨダレだって出ちゃうよ・・

このままキスをしてしまいたい衝動を
グッとこらえて話しかけた。


「ねぇ・・少しお話ししてもいいかしら、
 バーテンさんと」


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