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BAR・エロス
第10章 3人目・・
「いらっしゃいませ。
 わたくし、この店のオーナーでございます。
 今後ともごひいきに」


ゆったりと頭を下げるこの女性が・・

この店のママ?


意外、という言葉しか思い浮かばない。
だって・・
ここはセックスの相手を見つけるバー。
男と女のかかわりに、
1歩も2歩も踏み込んだお手伝いをするための店。

それをこの熟年の女性が経営者だなんて。

もちろん、この店の趣旨は
彼女の発案だろう。

いったいなぜこのような店を
始めようなんて思ったのだろうか・・


「・・とてもいいお店ですね。
 私すごく・・気に入っています」


気持ちが焦ってありふれた事しか言えなかった。

それでもママは機嫌よさそうに、
その美しい顔で微笑みを返してくれた。


「どうぞ今夜も、
 楽しんでいってくださいね」


そう挨拶してから、
紫苑を従えてプライベートと書かれた
ドアの中へと消えていった。




1人になると大きく肩を回し、息を吐いた。

紫苑の唇を奪うことに失敗したところで
オーナーママに遭遇し、
心も体もがちがちに凝り固まってしまった。

誰もいない店の中で
肩をまわして伸びをして、
まとわりついた緊張を揺さぶり落そうとした。


・・はぁびっくり、なんか、一気に疲れた・・


カラになったグラスを意味もなく揺すっていると
紫苑が一人で戻ってきた。


「失礼しました。
 グラス、カラですね。
 次は何をお飲みになりますか?」


「いつもの・・フォアロゼを」


「かしこまりました」


また酒を取りに行くのだろうといったん息を抜いていたのに、
彼はそこから動こうとしなかった。

すでにフォアロゼはそこにあったのだ。


「ねえまさか・・わかってたの?」


私の言葉を笑い飛ばすと思っていたのに、
彼は平然とハイ、と言ってのけた。


「やっぱりあなた、特殊な能力もってる!」


思わず声を張り上げた。
紫苑にしてはめずらしく、
店に響き渡るような大声あげて笑った。
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