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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第2章  3歳児の憂鬱



8月19日。

御手洗家は ぎゅうぎゅう だった。



正確に言えば、□の字型の屋敷の左側――居住空間が ぎゅうぎゅう だった。

モロッコ風のココの寝室・書斎・リビングは、ピンク色の風船で。

共用リビングは、パステルカラーの風船で。

そして階下に下りれば、図書館には直径50㎝のでかい風船。

家族用ダイニングに至っては、天井・空中・床上に白の風船が舞っていた。

そう。

屋敷中が “風船” で ぎゅうぎゅう だったのだ。

もちろん、こんな突拍子も無い事をしやがったのは、この屋敷の主――御手洗 龍一郎(18)。

本日3歳の誕生日を迎えた幼女の目覚めは、ひょろ薄い胸を得意気に反らした龍一郎の腕の中だった。

「ココ~♡ HAPPY BIRTHDAY~~♡」

「……お……はよう、ございまちゅ……?」

「ん~、今日も可愛いなあ。3歳になったご気分は如何でちゅか~?」

顔中に唇を押し付けてくる朝からウザい18歳男に、小さな顔は何とも言えない表情を浮かべつつ。

一宿一飯の恩義――どころか30宿90飯の恩義を果たすべく、一応 気を使ってみた。

「……う、うれちい……?」

(いやいや。3歳になっても、昨日までと何も変わりませんがな。相変わらずチビだし、相変わらず滑舌悪いし)

ただ、ヘーゼルの瞳が捉えたピンク風船の大群には、少しだけテンションが上がった。

しかし。

龍一郎に纏わり付かれながら朝の支度をし、自分のリビングに出た途端、そのテンションも下がり始めた。

「……あ~~……」

そこにもピンク風船がうず高く積み上がり、それらを短い両腕で掻き分け やっと共用リビングに辿り着いたと思えば、

今度はパステルカラーの風船という障害物が待っている。

「まさかな?」と思いながら廊下へと出れば、そこにも大量の風船が行く手を阻むように ふよふよしていた。

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