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いろはにほへと ~御手洗家の10の掟~
第1章 2歳児に惚れた男?
都内某所。
超高層ビル――いわゆる億ションの1室。
3LDKSの広い部屋には、暴力と怒号が渦巻いていた。
「ったく、手間取らせやがって……っ」
「ひぃ……っ」
ドンガラガッシャン五月蠅かった部屋に、ふいに落ちた静寂。
「冥途の土産に、自分の死に様を選ばせてやろうか?」
若干息を乱しながら、どすの利いた声で凄む男。
「прощати! ……Я не хочу поки вмирати!!」
ウクライナ語で必死に懇願した女だったが、その直後。
鈍い音と共に、くぐもったうめきを上げた。
「べたに “コンクリ詰めで東京湾に沈む” か? それとも “バラバラ死体で樹海にばら撒かれる” か?」
じっとりと粘り気を帯びた声音で、臨終の選択を迫る男に耐えられず、とうとう女は発狂したらしい。
耳障りな金切り声を上げるも、それも打撲の音がしたのち、
すぐに静かになった。
ずるり、ずるり。
何かを引きずる音。
数人分の靴底が立てる音。
そして、酷く静かな音を立てて開閉された扉。
それら全てを、3LDKSのS(納戸)に置かれた、プラスチック収納ボックスの中で聞かされていた幼女は、
現状を確認したいという気持ちを何とか抑え込み、3分間その場で耐えた。
「……も……、もちも~ち?」
幼女の舌っ足らずな声が、恐るおそる誰かを呼ぶが。
3度繰り返しても、その呼び掛けに応える者はいなかった。
丸っこい頭と紅葉の手でプラスチックの蓋を押し開け、85cmの身長ながらも何とか床へと降りる。
そしてヘーゼルの瞳が捉えたのは、強盗に押し入られた部屋とはかくや――と言わんばかりの荒れた室内の状況だった。
「あにゃ~~……」
次いで漏れた声は、大人の口ぶりをまねた滑稽な幼女の声。
(ついに山口組の親分に、ばれちゃったか……。大体、道仁会のトップと二股かけるとか、命知らずにも程がありンすよ、おっかさん……)