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余熱
第12章 告げる

「あれ、葉月ちゃん?」


透き通った高い声が耳に入り込んできて、はっとした。

振り向くと、モノトーンでロックテイストの服を着こなした長岡さんだった。

彼女はわたしだと認識すると、真っ赤なリップで塗られた唇をきゅっと結んで、艶やかな笑顔を見せてきた。

「こんなとこでぼーっとしてたの?信号、青だよ。渡らないの?」

どれだけの間ここで立ちつくしていたのだろう。

止まっていた時間や騒音、深みと煌きを増した夜の空気、

そして先生の車の残像が一気に押し寄せてきて、一瞬強い目眩に襲われた。


「…渡れないの」


吐息とともに、ぽつりと溢れた。

青信号が視界の中でぐらりと歪む。

長岡さんが眉間に皺を寄せるのが、その視界の隅に入った。


「渡って、先生のとこ、行こうと思ってたのに…

足が、動かないの…」


目の前を涙が覆って、夜の街が滲んで揺れた。

長岡さんはそんなわたしの手を引いて走り出し、点滅する青信号を渡った。

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