この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
余熱
第12章 告げる

「あれ、葉月ちゃん?」
透き通った高い声が耳に入り込んできて、はっとした。
振り向くと、モノトーンでロックテイストの服を着こなした長岡さんだった。
彼女はわたしだと認識すると、真っ赤なリップで塗られた唇をきゅっと結んで、艶やかな笑顔を見せてきた。
「こんなとこでぼーっとしてたの?信号、青だよ。渡らないの?」
どれだけの間ここで立ちつくしていたのだろう。
止まっていた時間や騒音、深みと煌きを増した夜の空気、
そして先生の車の残像が一気に押し寄せてきて、一瞬強い目眩に襲われた。
「…渡れないの」
吐息とともに、ぽつりと溢れた。
青信号が視界の中でぐらりと歪む。
長岡さんが眉間に皺を寄せるのが、その視界の隅に入った。
「渡って、先生のとこ、行こうと思ってたのに…
足が、動かないの…」
目の前を涙が覆って、夜の街が滲んで揺れた。
長岡さんはそんなわたしの手を引いて走り出し、点滅する青信号を渡った。

