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余熱
第9章 忘れる

「高田くん、何かあった?」

事後の後始末をしていると、水美が尋ねてきた。

「今までバックなんてしてくれたことなかったじゃない。」

“してくれた”という言い回しからすると、おそらく気に入ったのだろうが、

「…嫌だった?」

あえて、こう尋ねる。

すると、水美の瞳はとろんと潤んだ。

「ううん、なんかね…ぞくっとしちゃった…」

そう呟く彼女の目はどこか遠くを見据えているようで、

何かを懐かしんでいるかのような切なさを、紅潮させた顔に滲ませていた。


“何かあった”

その程度で済むものではなかった。

あれから、葉月との情事を経てから、

まるで別人に生まれ変わってしまったのではないかと思うくらい、

自分というものが根底から覆されてしまったようだった。


葉月との一夜、そして三連休明けの火曜日、


「いや〜森さんって可愛いよな〜」


授業前、トイレに入ろうとすると聞こえた男子生徒の声。

入り口の前で足がぴたりと止まる。



「でも確か、村田と付き合ってんだろ?」



村田…?

もしや、“祐”のことか…?


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