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余熱
第9章 忘れる
やはり、“ただの幼なじみ”ではなかったか…。
それならそうと、はっきり言ってくれればいいものを。
はっきり抵抗を示してくれればいいものを。
そうしてくれたなら、あの朝、俺は祐と重ねられなくて済んだだろうに。
不意に俺に向けられた声に、淡い期待を抱かなくて済んだだろうに――。
「村田って長岡さんにも告られたんだろ?すげぇなぁ。まぁ、俺だったら長岡さんにするけどな〜」
男子生徒の会話は続く。
「何言ってんのお前、断然森さんだろ!今日体育の時見かけたんだけど、ポニーテールまじでやばかったからな!」
――ポニーテールをしている葉月?
…見たことがない。
彼女は塾にくる時はいつも髪を結っていない。
自分の見たことのない葉月を、男子生徒が知っているという事実に、
胸の中は、嫉妬がもくもくと煙のように充満し、
頭の隅は、苛立ちで棘でも刺さったかのようにチリッとむず痒かった。
こんな感覚は初めてだった。
無性に煙草を吸いたくなり、さっさと用を足して、裏口から外に出た。
午後6時になろうとしているというのに、まだ明るい。
頬を撫で、ライターの火を揺らす風も生ぬるい。
女の笑い声が聞こえ、ふと通りに目をやる。
思わず二度見した。
――葉月だった。