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悪戯な思春期
第1章 テレビの向こうの王子様

 雑誌でみた瑠衣の私服を着ていた。
 似合いすぎてて癪に触る。
「天草……俺、さ」
(私が欲しいんでしょう?)
『次の曲はCRAZEだ! 悶え死ねよお前たち!』
 心臓の高鳴り。
 バイオリンが響く野外の歓喜の中、私は西の言葉に釘付けだった。
 西は瑠衣スマイルをして言った。
「瑠衣になりたいんだ」
 CRAZEはフィナーレを迎え、周りの人々が次々に消えていく。
(あぁ……もうハロウィンは終わり)
 西は私の手をとってステージに向かい歩き出した。
「天草は俺のだよ」
「……ご主人様」

「うっわああああああ!」
 私は超絶マッハの勢いで飛び起きた。
 まだ唇にはさっきの言葉の余韻が残っている。
 頬がカァッと熱くなる。
(ごしゅ……ご主人って)
 瑠衣にならともかく、相手はクラスメートの西だ。
 自己嫌悪と快感に挟まれて、暫く思考停止状態に陥る。
「ピンポーン」
 今日は土曜日だ。
 土曜日のはずだ。
 急いで寝巻きを着替え、髪を肩のあたりでカールさせると、玄関にダッシュした。
「はい、おはようございまー……」
「やぁ、天草。私服可愛いね」
「マジか」
 そこにいたのは西雅樹だった。
(なんで! なんで? なんで……)
 内側で悲鳴上げまくる私だが、表面は冷静そのものだった。
「何の用?」
 西はチェックの上着と白のTシャツとデニムという格好だった。
 オーダーメイドかと疑うくらい、彼の体の線が浮き上がっていた。
 鎖骨が瑠衣にそっくりだ。慌てて目を逸らす。
「デートしようぜ」
 桜吹雪が空を舞う。
 燕は隣のアパートに巣作り真っ最中だ。
(なんつっ……た)
 俺様男子。
 決して流行らないこの言葉は需要の低さを示している。
 滅多にいないのだから。
 草食系が占める現代で。
「デート」
(そんな綺麗な顔で……顔……瑠衣に似ている……ああああ)
「急に言わ……れても」
「電車で軽井沢行こう」
 まるでプランは出来ていて、お前の返事一つで決まるのだというこの態度。
 余裕綽々だ。
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