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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで
一緒に歩く西はなんだか嬉しそうだった。
昨日の軽井沢の林の中での険しい顔とは大違いだ。
商店街のカラフルな煉瓦を踏みしめ、私たちは何処ともなく歩いていた。
週末ということで、人の混み具合は尋常ではなかった。
過ぎ行く人の中で、女性は西を二度見していった。
(イケメン……とか呟いているんだろうなぁ、彼女たちは)
春の鮮やかな花を満開にさせた花屋では、中の店員が剪定中のスイートピーを握りしめたまま西を目で追っていた。
「もうすぐ模試だな」
女性たちの思いなど気にも留めずに、西は肩に手を置いた。
身長差のおかげで、歩きにくくなることはない。
だが、心臓の拍動は速まるばかりだ。
「準備出来てるか?」
校内一の秀才は余裕な笑みを浮かべた。
(嫌みな……)
私の反応を楽しむように、西は軽やかに歩き続ける。
「あの、西……」
(期待通りに言ってあげるよ)
西が振り向くと、その瞳に呑まれる前に私は次の言葉を紡ぎ出した。
「良かったら、その、勉強教えてくれない?……かな」
俯いてしまう私を、焦らして彼は肩を抱き寄せた。
もたれかかる姿勢となり、嫌でも周囲の視線が突き刺さる。
「天草の家でなら」
ニヤリと笑うと、西は軽く額に口づけをした。
「ふた……二人きり、で?」
両親の不在を知っているかわからないが、私はおずおず聞いた。
それには応えず、西は私の髪を撫でた。
ラトルのテラスの時とは違い、優しく。
こんな時にすら瑠衣を思い浮かべてしまう私は悪い彼女だ。
(まだ彼女って認めてないくせに)
(うるさい)
瑠衣はライブの最中、バンドのメンバーの頭を必ず撫でる。
ギターの二人は後ろから腕を絡めながら。
ドラムの男は髪を引っ張るように強く。
妖艶なダンサーにはキスをしながら甘く。
ピアノ担当は鍵盤を押して、大音響の中軽く前髪をなぞる。
その度ファンから盛大な嫉妬の歓声が上がるのだが、瑠衣は不適に笑い叫ぶのだ。
『まだ声は出るだろ!』
(出ますとも)
彼の細い手に髪をすかれるのを夢見て、私たちファンはファンであり続ける。
東京ドームライブは一段と興奮した。