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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで
「作ってるの?」
昨日の料理の腕を目の当たりにした私は、率直に訊いた。
「全然。まだ教えてもらえない。まぁ、料理は好きだから洋菓子も作っちゃいるけど」
大したことないさ、西は小さく笑った。
そして、私の前に置かれたコーヒーを見てさらに口の端を上げる。
「またブラックか。ケーキと合わせると苦くないのか?」
「むしろ良い! 甘さと苦さがパァッと……苦いのが好きだからさ」
「ふぅん」
西は何を連想したのか、舐め回すような視線を向けてきた。
期待を裏切らない私の顔は沸騰状態だ。
西は思い出したように向かい側に座った。
洒落た丸テーブルは二人掛け用らしく、小さな円を挟んで西の顔が近くにある。
私はティラミスを食べ終えたところだった。
名前の響きに惚れてお気に入りにしているが、ピリリとくるブランデーの強さが好きだった。
「ティラミスは作らないの?」
突拍子もなく尋ねたものだから、西はついていた頬杖を外して呆気にとられた。
だが、すぐに瑠衣スマイルを浮かべると、言い聞かせるように語り出す。
「ティラミスってチーズが命なんだ」
「ブランデーとかココアじゃなくて?」
「あぁ……基盤はマスカルポーネチーズでね。これが市販になかなか良いのがないんだ。店の使う訳にもいかないだろ? だからティラミスは作ったことがない」
ケーキを作るのが心から好きなのだろう。
西は出会って以来一番饒舌だった。
「天草は?」
「料理? ティラミス? まぁ……インスタントキッドみたいのでは作ったけど、あまり美味しくなかった。粉末を混ぜるの下手で、ダマが残ってたんだ」
裏技やテクニックを教えてくれる人はとっくに他界してしまった。
それを実感して、私はフッと笑う。
(まともにチョコも作ってないし)
瑠衣に贈ってきたのは大抵焼き菓子だ。
ケーキなど重い上、成功率が格段に低い。
「食べさせてよ」
舌なめずりする西に言われてしまっては、ただこくんと頷くしかなかった。
「味の保証は……」
「いらないいらない」
頭をくしゃくしゃ撫でられながら私は帰る支度をした。