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色絵
第2章 入門
席に戻る。
先生は色付けを続けている。

「今、僕が色付けした花を思い出してごらん。
花びらの色は、どこが一番濃かったかな?」

ワタシは目を閉じて思い出す。

「芯の方だったと思います。」

「では、香りはどこからしたかな?」

「やはり、芯の方からです。」

「そう、芯の中に、雄しべや雌しべ、命の源があって、そこから香りも色も作られているんだよ。

でもその花に命を送っているのは、茎や葉だね。

描き方に正解などないんだけど、僕は、花の成り立ち、命の源から描くようにしているんだよ。」

「だから、生き生きとしていているんですか?」

「それはわからない。
正解などないからね。

でも僕は、赤く実ったさくらんぼでなく、これから赤く染まるだろう実を描いた。
その実に送られる命、エネルギーを描きたいと思ったからね。
そして、絵を見て感じて欲しいと思った通りに感じてくれた貴女がいて、
初めてあの絵に命が吹き込まれる。
だから絵は、コミュニケーションなんだよ。」

ワタシは、また何も答えられなかった。
先生は、きっと返事を求めていない。
絵を通して、自分を表現する、会話以上のコミュニケーション手段を持っている先生に、うわべだけの返事を返すことが失礼だと思った。
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