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【SS】目が覚めたら…?
第7章 【2000拍手突破感謝】Ⅱ.王子の憂鬱
 


 僕の腕の中でふるふる震えるしーちゃん。

 
 ああ、愛おしさが溢れてたまらない。

 好きで好きでたまらないんだよ、しーちゃん。



 優しい優しいお隣のお姉さん。

 
 家族にすら見捨てられたあの嵐の夜、君は僕の傍にいてくれた。

 おかしな踊りをするほど熱を出しながら、それでも…どもり症で引きこもりだった僕がする話にじっと耳を傾け、そして一生懸命僕の目線で会話をしようとしてくれた。


 波瑠兄だけしかいなかった僕の世界に、君は鮮烈に飛び込んで来た。


 どんなに辛くても笑い、僕を励まし元気づけてくれ、だけど雷の音に悲鳴を上げて、僕に縋り付いてきた君。


 年の差を超えた君との触れあいに、僕は心がきゅうと音をたてたんだ。



 ずっと、離したくないと思った。

 ずっと、僕だけのお姉さんでいて欲しかった。


 嵐の日、子供の僕だけしか頼れるひとがいなかった、あの……ふたりだけの世界が、この先もずっとずっと続くことを願った。

 
 いつも聞き分けがいい子供でいた僕の、初めての願望――。


 "このお姉さんから離れたくない"



 そしてそれからほどなくして。


 姉への思慕は、異性の恋慕だと自覚した。


 だけど、いつもいつも君の傍にはオトコがいて。

 そのオトコに君は笑顔を振りまいて。


 自然に絡み合うその手が無性に恨めしかった。


 僕はまるで子供過ぎて、君が繋ぐ手は保護者のそれとは変わらなかったけれど、それでも繋がった手からいつか想いが伝われと、泣きたい思いを堪えて君の手をぎゅっと握っていた。


 わかっているのかな、しーちゃん。

 あの頃の僕は、君の手を握って、僕は隣にいると自己主張をするのが精一杯だった。

 "しーし"と呼んでまとわりつく度に、君がとても嫌な顔をして遠ざけようとしていたのはわかっていたけれど、それでも諦めきれない想いがあった。


 どうしても"しーし"が欲しい。

 しーしと釣り合う大人に、早くなりたい。


 僕は波瑠兄の弟だから、いずれきっといいオトコになる……だけどその前に君は眠り込んでしまった。


 12年という途方もない期間。


 僕は毎日病院に通い、君に語りかけていた。

 雨の日も晴れの日も……。
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