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【SS】目が覚めたら…?
第8章 【2000拍手突破感謝】Ⅱ.執事の憂鬱
「こんなのをよくデビューさせたな、そこの会社も」
波瑠さんは上を向き、口からドーナツ型の煙を連続して作り出す。
「サクラの調書で、"山田権太"が出て来てねぇってことは、その過去を消せる奴らが……案外、ボーカなんちゃらっていう曲を否定していちゃもんつけたヤクザがついているかもしれねぇな。風虎OBにヤクザの可能性はあり。……上納金目当てか。
ははん、だから暴れ放題しても事務所が庇うのか、バックが怖くて」
「しーちゃんが聞いていたSeasonの曲は、ここまで酷くなかったけど? ボーカルの歌い方がひどいだけで。高音も駄目低音も駄目。中音域は掠れきって声量がない……。だけどメロディの耳障りはよかったなぁ。ずっぎゅんのような色物の曲ではなかったように思うけど…」
「……彼らの曲、僕が作っていたものなんです。結構たくさんの曲のストックを事務所に預けていたんですが、それが幾分かは、今のHaruが歌いやすいようにはアレンジされているものの、ほぼ丸々使われていて……」
「そんな!! 言えばいいじゃないか。著作権の侵害だって!!」
現役法学部のウサギが、頬を膨らます。
「言えません。解雇された際の条件がそれでした。僕……親の借金を先に事務所に肩代わりして貰っていて、返済担保として曲を渡したんです。方向性が違うと解雇されたはずなのに、なんで僕の曲がよりによって僕が抜けたSeasonで、あのHaruの作曲として使われているのか、その理由は聞いてみたい気はするんですけれど……」
多分、権太を据えるためのヤクザからの圧力がかかったんだろう。
「相楽、お前の歌は聴けるか?」
波瑠さんの声に、相楽はスマホを弄る。
「前に、無料動画に投稿したものなら。風呂場で歌っているので、音質はよくないですが」
俺達はスマホから流れる音楽に聴き入った。
「だ、誰の歌声だって?」
「ぼ、僕で…」
「この曲は……」
「僕が作りました。機械でですが」
ナツと俺は唖然と顔を見合わせた。
Haruとは比較にならない声量と高い音域の美声の持ち主で、さらに作られた曲も申し分もなく、機械ではなく生楽器でオケをとって歌ったのなら、さらに素晴らしい名曲となっただろう。
「……才能を安売りしやがって」
波瑠さんは言い捨てた。