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【SS】目が覚めたら…?
第8章 【2000拍手突破感謝】Ⅱ.執事の憂鬱
「今のSeasonの曲、Haru……山田権太には、随分と違和感ありすぎだよね。元々メインボーカルは、貴方の予定だったの?」
ナツの問いに相楽は頷く。
「一応僕は……ボーカルコンテストに優勝したことで、審査員に来ていたその事務所と縁ができたんです。ボーカロイドで曲を作っているということを後で知られて、じゃあ……コラボのような形はどうかっていうことになったんです。
今のSeasonの曲は、僕の武器とする高音域が抜けて、中途半端でひどい出来です。そんな曲でも人気があるのなら、きっと僕が求める音楽性は、人様にはウケないということなんでしょうが……。プロ……になれないだけの理由はありますよね」
「違うだろ」
「え?」
相楽が波瑠さんを見上げた。
「音楽とは、人にウケさせてナンボだ。そこで気弱になってどうする」
「は、はぁ……」
「認めて貰いてぇから、ドームの前だろうが、場所を借りて地道に活動してるんだろう? 権太なんぞよりお前が自信をもてねぇと、この先音楽界どうするんだ。歌うこと、曲作ること……あきらめるのか?」
「いいえ」
相楽はきっぱりと言い切った。
「ですが……。問題は場所が借りられなくなっただけではないんです。僕と一緒にやっていたバンド連中……この一週間で、また引き抜かれたようなんです」
「"また"?」
波瑠さんの眉間に皺が寄った。
「解雇されてから僕とバンドを組んでくれる者達は、ことごとく僕が解雇された事務所に引き抜かれ、Seasonのバッキングやレコーディングに参加しています。だから演奏を披露する機会がない僕は、無料動画で作った曲に合わせて歌を歌っているのを公開するのが精一杯。それも視聴PVがあがればあがるほど、僕個人情報をコメントで流され…。仕方が無く閉鎖したり…。
今回は慎重に行動していて、ようやく演奏が出来ると思った途端にこうです。許可取り消し、同時にバンドメンバーの引き抜きです……」
相楽は俯いた。
「僕、なにをしたんでしょう。ただ、純粋に音楽やりたいだけなのに」
そして――。
「人前で思いきり、歌…歌いたいなぁ……」
俯いた顔から、テーブルの上にポタポタと悔し涙を落とした。