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【SS】目が覚めたら…?
第9章 【2000拍手突破感謝】Ⅳ.憂鬱の向こう側
やがて――。
弟に主役を譲ったハル兄が、スポットライトから外れて闇に消えた。
今、光輝いているのはナツだけだ。
あれだけ圧倒的な光を魅せていて、ハル兄はナツにその華々しい舞台を譲るくせがある。
まだまだ現役で輝ける帝王が、退くなんて寂しいだけなのに……そうしんみりとしてしまったあたしだったが、ハル兄はただ消えただけではなかったのだと気づくのは、それから数十秒後。
ナツが持ち場を踊り終えると、暗闇に斜めに立つハル兄が浮かび上がったのだ。
「うおっ!?」
彼は――着ぐるみを脱いでいた。
長いお耳も、もこもこあんよもない。
ひとの姿だった。
ナツを目立たせていた間に、暗闇で着替えたのか。
それとも着ぐるみの中に、既に着込んでいたのかどうかはわからない。
黒いズボンと、裸の上半身に羽織り腰の飾り紐で無造作で縛られているのは……腰まである丈の着物のような衣装。
黒地に金と赤をちりばめた豪華絢爛なそれは、古代中国の皇帝の衣装のようだが、袖はさほど拡がってはいない。
ガウンのようにゆったりと襟を合わせて腰で留めただけだから、そこから十分に……艶気漂う逞しい胸板が見えている。
凄まじい貫禄だった。
圧倒的なのはその存在感だけではなく、彼独自の美貌もそうであることを見せつけた帝王が、あの凶悪ウサギで踊っていたということがわかり、場は騒然となった。
ハル兄は精悍で端正な素顔を、気怠げに上に向けていた。
憂いの含んだ目で――。
そんな時、ハル兄の横にもライトがあてられる。
そこにいたのは、やはり同じ黒いズボンに……赤地に金と黒の模様が施された……、ハル兄とは色違いの衣装を身につけたナツ。
均整の取れた白い胸板を覗かせて、ハル兄とは対照的に斜め下を向いている。
そこには"ずっぎゅん"したり愛想を振りまいていた愛らしさはなく、兄同様の長すぎる手足と衣装によって相乗された輝かんばかりの美貌を披露し、凜々しい王子姿にまたもや場は騒然だ。
あのウサギはなんだったのか。
あたしも謎に思うけれど、そのギャップ差に……美貌三割増しかも。
まさか、それを狙ったのか?
だとすれば、思惑通り……観客の目は兄弟に釘付けだ。