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【SS】目が覚めたら…?
第9章 【2000拍手突破感謝】Ⅳ.憂鬱の向こう側
そんな時だったんだ。
素敵すぎるその曲に覆い被さるようにして、どこかで聞いたような雑な音色で更正された曲が流れてきたのは。
「ちょっとトラブルあって、30分遅れでStart!! 皆、行くぜ――っ!!」
歌声が響き、凄まじい光のシャワーを浴びながら、今まで無人だったステージの暗闇から出てくる、煌びやかな衣装を来て飛び出してきた男。
ええと……誰だっけ?
「……Haruってこんなにインパクトなかったっけ?」
委員長がやけに冷静に呟いた。
Haru……ああ、アイドルの方か。
画面は強制的にHaruに切り替わる。
あたし達をノリノリに熱狂させた、佐伯兄弟が消えてしまう。
……ねぇ、なに?
この、胸にぽっかり穴があいたような喪失感。
そして念願のHaruがいるというのに、この倦怠感。
「ねぇ。少し前まで、Seasonの曲は最高と思ってたけど、前座の曲を聴いていたら、なにか物足りなくない?」
それは委員長ではなく、観衆のざわめき。
「あれ、Haruだよね? 影武者とかじゃないよね。ここまでオーラなかったっけ?」
「なんか歌、下手じゃない?」
「ダンス……全然あの前座と比較にならないほどひでぇんだけど」
不満の声が渦巻く。
それを感じ取っているのか、Haruの盛立てが虚しく思う。
Haru以外のメンバーは、しんみりとしていてお葬式だし。
バラバラ。
ユニットなのに、繋がっていない。
ハル兄とナツのように、互いをわかりあえて互いに同じ場を喜び合う……そんな高揚感が全く感じられない。
「あのふたりのダンス、まだやってるのかな」
「あれってドームの入り口だったよね」
「Seasonより、あっち見た方よくない?」
そして観客のほとんどが――。
「おい、どこに行くんだ!? これから俺らのライブが――っ」
プラチナチケットにまでなったあのSeasonを背にしたのだった。
勿論、あたしも委員長も。
「待てよ、こら!! ライブだぞ!? この先握手会も――」
心には、既にSeasonは色薄れていた。
……代わってあの兄弟の色彩だけが強く残ったのだった。
音声なく、ただ踊っていただけの無名なあのふたりの方を――。