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【SS】目が覚めたら…?
第9章 【2000拍手突破感謝】Ⅳ.憂鬱の向こう側
あたしは思い出す――。
最後のSeasonライブとなったあの時。
会場を背にしたあたし達に飛び込んで来たものは、大勢のひとだかりの中心から奏でられる、相楽遙人の歌声だった。
女の声のような高音域も、低音域も……艶やかな声で表現出来る彼。
息継ぎなしで歌い続けられるその声量――。
その歌声はあの中華風の曲の冒頭に流れていた素晴らしき声音だった。
そして――。
あたし達がここに来る直前まで、ステージに飛び出したHaruが歌っていたのと同じ曲をアカペラで歌い出したとき、あたし達は格の違いというものを心底思い知ったのだった。
ドーム退避者達は、完全にハル兄達のダンス目当てに来て、そのお目当てのふたりが見当たらないというのに、元々ここに居た大勢と同じように、魅縛されたように……彼の歌声から動くことができなくなっていた。
場はしんと静まり、広域を自由自在に駆け巡る彼の歌声に涙する者も現われて。
彼は、僅かに緊張したように声を震わせながらも、ただ静かに歌い続けた。……なぜかSeasonの曲ばかりを。
ドーム内は閑古鳥。
その多くは相楽遙人に魅せられ足を止め。
やがて、それを業務妨害だと怒鳴るドームの事務局らしき責任者やら色々、さらには爆破予告はデマだったらしいということで落ち着いていた警官も(連れて)来て、なにやら不穏な空気になった。
そんな時、Tシャツに着替えていたのか、ようやく姿を見せたハル兄とナツが、ペットボトルの水を飲みながらにやりと笑って言ったんだ。
「このドームでライブしている人気アイドルの宣伝のために、Seasonの曲を歌っているんだ。別曲ならまだしも、なんの文句がある? どんなに金かけても、同じ歌を歌ってドームがもぬけの殻になるのは、それが本家本元の……Seasonの実力なんじゃないか」