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【SS】目が覚めたら…?
第9章 【2000拍手突破感謝】Ⅳ.憂鬱の向こう側
「ああ、宇佐木呉服店というのはだな……」
地味に宣伝始めたけれど、ナツがわざとらしくゴホンゴホンと咳払いをして、はっと我に返ったようだ。
「人が集まるということは、それだけあの男の歌がうまいというだけの話だろう。真実の歌を聴きたがって集っている、これだけの群衆を敵に回すのか。お前達こそ、真実に目覚めろ」
そして――。
ハル兄の巻き物に描かれていたあの不気味な顔の如く、ウサギの目がカッと見開く。
鬼気迫るそんな顔で彼が見たのは、黒いハル兄のTシャツと赤いナツのTシャツ。
「刮目せよ!!」
彼は叫んだ。
ふたりのTシャツをよく見れば――、
【衣装協力:宇佐木呉服店】
と胸元に、小さく小さく入っていた。
目を大きく見開かないとわからないほど小さな文字。
うまく誘導されて、思わずその文字を見入ったあたし達に、ウサギはしたり顔でご満悦。
その横でハル兄がにやりと笑ってご満悦。
ああ、このためか。
……多分、うるさい小蠅を取り払う盾とするために、ハル兄が…悪魔の甘言で公僕の権威者を引き摺り込んだんだ。
利用されていることに、ウサギ自身はわかっていないみたいだけれど。
もしかすれば、あの中華風の衣装もウサギに手配させ、どこかに小さく宇佐木呉服店の名前が書かれていたのかもしれない。
目立たせて人様の記憶に焼き付けた……というよりも、皆の目があるところに宣伝したという行為だけで、満足している単純ウサギ。
目立ってナンボのこの世界。こんな程度で満足するなら、一般企業においては営業職も広宣職も落第点だ。
だけどここは口を挟まないでおこう。
ウサギにとって好感度MAXを振り切ったらしい、友達思いのハル兄に感じている熱い友情に、わざわざひびを入れることもない。精神的なものが祟れば便秘に影響するだろうし。