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【SS】目が覚めたら…?
第9章 【2000拍手突破感謝】Ⅳ.憂鬱の向こう側
相楽遙人が観客に歌のリクエストを尋ねれば、誰もが叫んだ。
彼の曲があるのなら、Season以外のもので聞きたいと。
Seasonの応援としてSeasonの曲をドーム前で歌っていた彼は、逡巡する素振りは見せたが、袖に待機するハル兄、ナツ、ウサギ、モモちゃんが観客を煽り立て、相楽遙人の躊躇を壊させた。
そして始まった彼の曲――。
あたし達は彼の音楽のセンスに驚愕し、聞こえる曲の素晴らしさに戦慄し、その未来を熱望した。
それはまるで宗教で。
Haruより数倍甘く整った顔を持つ、相楽遙人の曲と歌声に酔い痴れる観客達から、落胆の野次が飛ぶことはなく。
出入り自由の野外施設から出て帰ろうとする者はいなかった。
相楽遙人は歌の途中、感極まったように泣き出し歌えなくなるというハプニングが起きたが、彼が落ち着くまでハル兄とナツが袖から舞台に飛び出し、踊ることで場を繋いで行く。
途中ナツとハル兄に誘われ、無理矢理ステージに連れられた……PAを担当していたモモちゃんが、あたふたしながらも彼らと一緒に踊り始めたのには、正直驚いた。
執事は主人の前に出るべからず――。
そんなことを思っていそうな古風なモモちゃんが、あのふたりと同じステージに立つとは思わなかったから。
モモちゃんの…どこかぎこちないダンスは、あのふたりの神がかり的なダンスには及ばなかったけれど、凄くいい顔で笑っていたんだ。
――嬉しそうに、楽しそうに。
ああ、いいな。
こういうのっていいな。
あたしが入れない世界があろうとも、そこであたしの大好きな人達が、こんなに笑顔でいられる場所があるのなら――。
寂寥感よりも、幸福感で心が満たされる。
この兄弟を愛してくれてありがとうね、モモちゃん。
そしてモモちゃんを愛してくれてありがとうね、佐伯兄弟。