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【SS】目が覚めたら…?
第2章 Ⅰ.ハル兄と……
 



 行き着いたのは、都心から少し離れた……純和風の料亭。

 その静寂な佇まい、着物服姿の従業員の立ち振る舞いなど、見るからに……あたしなど一生無縁でもおかしくない、高級料亭だ。

 乱れまくったあたしの着物姿は、ハル兄のコートとハル兄のエスコートで隠してくれたが、上品そうな女将さんにはどうしてこんな格好なのか、わかってしまったらしい。


「お久しぶりですね、佐伯先生。ふふふ、ちゃんと離れの奥の間を用意しましたから、声を上げられても大丈夫」


 ぼん。


 沸騰したあたしは、思わず躓きそうになった。


「あら、だって佐伯先生の診療でしょう? この方の治療、女性ホルモンが活発になって女らしくなると、"その道"では有名ですもの…。ですがなぜ、悲鳴のような声が聞こえるのか謎なんですけれど。どんな診療なされているのかしら」


 ……待て待て。

 それは医者としての腕前なのか、それとも女遊びの皮肉なのか。

 有名な"その道"とは、どんな道だ!!

 女性ホルモンを活発にさせる悲鳴ってなんだ!!


「女将。この子は"いつもの"とは意味が違う」

「あらあら。それは失敬。ふふふ、天下の佐伯先生が取り乱すなんて、新年早々珍しいものを見れたわ。ふふふふ……」


 "いつもの"

 ――って、なに?


 ま、そりゃあお医者様にも接待とか色々あり、時にはこうした高級料亭にお越しになることもあるでしょうが、その都度"奥の間"にて治療なさっていたんですか。患者さんがここまで来るんですか。ほー。


「帰る」

「え?」

「あたし帰る」


 踵を返してすたすたと玄関に戻ろうとしたあたしの腕を、慌ててハル兄は掴む。
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