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【SS】目が覚めたら…?
第2章 Ⅰ.ハル兄と……
「シズ? ここで着替えろ? な、ほら車から出した荷物に着替えが…」
「佐伯先生、あたし体調よくなりました。着替えも必要ありませんから、明日嵐になりそうなそんな気味悪い猫なで声で人の顔色窺わなくて結構です。
あ。先生はカニしか食べてませんでしたよね、どうかここの料亭でごゆっくりお食事でも~。あたしは家でナツのおいしいおせちの続き食べますから。
ああ、もしも診たい患者さんがいるんでしたら、ここに呼んで下さいね。もしやさっきの病院でも、患者さんが声を上げるような痛いお注射、しちゃったんですかぁ? ふふふ、佐伯先生ったら、ぜ・つ・り・ん」
そして――猛ダッシュ。
「待て待て、シズ待て。言い捨てて逃げるな、待て――っ!!」
走る。
走る。
新年早々、着物姿で全力疾走。大逃走。
……だが、駆け足は……サバンナの帝王の方が上だった。
ぐいっと引き寄せられ、俵担ぎにされ……問答無用で、その怪しい奥の間だといかいう場所に連れられたのだった。
奥の間――。
玄関から入ったのを母屋だとすれば、中庭にかかる渡り廊下で繋がった、閑静な離れ。
カコン。
竹筒にちょろちょろ水が溜まれば、頭を下げて水を流す……日本古来からよく見る雅の鹿威(ししおど)しの奏でる音を、無粋なハル兄の足音とあたしの騒ぐ音が掻き消し、放り込まれたのは12帖ほどの和室。
片隅に茶道具や鏡台があるのはいいけれど、どうして縄とムチ、そして蝋燭や手錠が壁にあるのかわからない。
畳に堕とされたあたしは、まるでゴキブリかなにかのように四つん這い状態で四肢だけを忙しく動かして部屋から出ようとしたが、ハル兄に帯を掴まれ、ま……あれだ。"あ~れ~"だ。
定番の……帯くるくるだ。
殿ではなく帝王に帯を引っ張られたあたしは、両手を挙げてまるで駒のようにくるくる回されながら、やがて畳の上にぼすん。
帯をなくした着物の下から覗くのは、全裸。すっぽんぽん。
この格好で逃げるのは恥ずかしいが、前を掻き合わせて意地になって逃げようとしたら、
「シズ――っ!!」
「――っ!!!」
ぶちギレ寸前の帝王の怒声に、条件反射にびくんと体を震わせて動けなくなってしまった愚民。
怖いやら理不尽やらで、涙がぽろぽろだ。