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【SS】目が覚めたら…?
第2章 Ⅰ.ハル兄と……
 

 そしてハル兄は腹から手を背中に滑らせ、


「へその真裏を起点に左右2つ。腎愈(じんゆ)」

「あ、うっ……くっ……」

「シズ、ひとり5役号令開始!!」


 愚民は痛みに顔を顰めながら号令をかける。


「1,に!? ざっ……んっ、よ……ぉんんんっ、ごぉぉぉぉぉぉ――っ!!」


 数を増やせば増やすほどに痛くなるハル兄の指。


「よし、逆号令開始!!」

「5,4,3,2,1……ふぅ……っ」


 今度は逆に力が緩められて安堵する。


「――というのを、あと19セット!!」


 どこかの体育系の鬼コーチのように命令され、なにがなんだかわからぬまま、それでもなんとか絶叫しながらこなしたその後は、なんと尾てい骨の上に拳をぐりぐりと動かされた。


「ひぃぃぃぃぃ!!」


 あたしがなにをした!!



「八りょう穴。どうだ、シズ。まだ俺様の指圧を疑うのなら……」


 背中でハル兄の指の骨が、ボキボキ鳴った……不穏な音がした。

 これ以上は殺される。

 目覚めて1年もしないで死ぬのは嫌だ。
 

「わかりました、わかりました、わかりました!! ハル兄はここで患者さんに指圧していました!! あたしが勝手に勘違いして、妬いていただけでした、ごめんなさいっ」


 そしてはっと気づいた。


 "妬いていただけでした"


 OH、NO!!

 またもやいらぬことを!!

 聞いてないよね、聞き流しているよね?



「妬く……?」



 だがハル兄の耳には、そこだけがなぜかピンポイントで届いてしまったらしい。


「妬いたの、お前……」

「いや、それ……聞き間違いで……」


 訂正が通じる相手ではなかった。


 恥ずかしいのに、わざわざ体の向きを変えられたあたし。

 さらには頬に両手を添えられて、真面目な顔で尋ねられる。



「今ひとたび答えよ。汝、妬いたのか」


 帝王様の眼力が凄まじい。


 "妬いたんだよな、お前絶対そう言ったな、冗談だと言ったらぶっ殺すぞ"



「や、妬きました……」



 すると。



「――っ!!?」


  
 ハル兄の顔が真っ赤で。

 しかも嬉しそうで。


 さらに悦びの表現として、あたしを抱きしめると、所構わずちゅっちゅちゅっちゅとキスを落とした。

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