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【SS】目が覚めたら…?
第18章 ハルへのエイプリルフール
――なんだ、シズ。抱きついてきて。俺様に惚れたのか?
あたしは無言で、ベルトを出した。
――なんだ、まだそのちゃっちぃおもちゃで遊んで貰いたいのか、お前。は? 変身? 俺様は変身しなくても格好いいだろうが。つーか、変身できる奴なんてこの世にいねーし。そんなだせぇのに変身なんてしたくもねーし。
……眠ってすっきりのハル兄は、それまでライダーがどれだけ凄いのか、ライダーの苦労話までしてあたしを興奮させていたくせに、突如反ライダー派に転向し、
――お前、いい加減目を覚ませ。世界には、大人が金儲けのために作り出したライダーより格好よくて強い奴はいるもんだ。俺様のようにな。……エイプリルフールおめでとう。ふぁ…。そこのソファで寝る。親帰ってきたら起こせ。
ライダーの存在自体を金儲けの道具だと断言して、エイプリルフールのひと言で、はい"ままごと"終了。
今まで、ハル兄に尽くしてきたものはなんだったのか。
ハル兄に対する尊敬の念はどうすればいいのか。
本物だと思った……変身ベルト。
――あらぁこれ、ハルちゃんのお父さんが漬け物石持ち上げた時になった、ぎっくり腰の時にしていた腰痛用のベルト? それにこの前についているのは……自転車のライト?
帰ってきたママにそう言われて、あたしは速攻ゴミ箱に捨てた。
……いまだ、なんでハル兄は、相手を蹴り飛ばす際に手を上げていたのかよくわからない。
だがそれ以降のエイプリルフールを思い返してみても、ハル兄は必ずあたしがその時に夢中になっているヒーローの正体を匂わせて、あたしのもしかしてというささやかな期待をいつも木っ端微塵に壊した。
そして、いつしか……。
この世には、悪を救うヒーローなんておらず、魔王だけが支配する世界のように思えて、あたしの考えはより冷めてしまったような気がする。
これもきっと、希望の灯を消しまくってくれたハル兄のせいだ。
……そう、それは12年前までの話。